半導体不足(機器の不足)の原因は?解消の見通しとは

専門用語集

2022年現在も、半導体不足が世界中で叫ばれています。半導体はパソコン、モバイル機器、家電、自動車など、さまざまな機器に使われている部品です。そのため、半導体不足は多くの産業において影響を及ぼしています。本記事では、半導体不足(機器の不足)の原因や解消の見通しなど、半導体不足について解説します。

半導体とは

半導体とは、電気的性質を備えた物質です。金属などの電気を通す「胴体」とゴムやガラスなど電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持っているとされています。半導体は、温度によって抵抗率に違いがあります。低温の場合はほとんど電気を通しませんが、温度が上がると電気が通りやすいという性質を持っています。

半導体は不純物をほとんど含んでいないため電気を通しません。ただし、ある種の物質を含むことで電気が通りやすくなるとされています。こうした半導体の性質を活かして、電気制御にも用いられています。また半導体を用いたトランジスタなどを含めた広い意味で「半導体」といわれている場合もあります。

半導体が使用されているもの

半導体は産業機器だけでなく、生活に身近なものにも使用されています。ここでは、身近な製品で半導体が使用されているものをご紹介します。

・パソコン

・スマホ

・タブレット

・テレビ

・ゲーム機

・冷蔵庫

・洗濯機

・エアコン

・給湯器

・自動車 など

半導体が使われている製品は多岐にわたるため、社会インフラには欠かせないものとされています。

半導体が不足することで起きること

半導体が不足してしまうと、半導体を使用したあらゆる製品の生産が止まってしまいます。これは半導体を使う製品を生産するメーカーの生産計画が狂ってしまうからです。さらに半導体不足によって計画通りに製品が作れないと、一般的な消費者にも影響が及びます。「購入しようと思っていた製品が入荷しない」「販売価格が大幅に上昇している」などの事態が起こるためです。特に冷蔵庫や洗濯機、給湯器など、生活に密着した製品の不足は、日常生活に大きな影を落とすことが予想されています。

半導体不足(機器の不足)の原因

半導体不足(機器の不足)の原因にはさまざまなものが考えられます。ここでは主な原因を5つご紹介します。

新型コロナウイルスの感染拡大

新型コロナウイルスの感染拡大は、生活を一変させました。そして「新しい生活様式」という言葉が生まれ、人々が求める製品が変わったこと、そして予想を大きく上回ったことも原因とされています。

感染拡大によって、テレワークを導入する企業が増えました。その結果、パソコン、スマホ、モニターなどの需要が拡大し、半導体をさらに品薄な状況へと導きました。

また巣ごもり需要により、大型テレビやレコーダーなど、「自宅で快適に過ごすため」の家電も人気となりました。その結果、需要が増え、半導体不足につながっていったのです。

さらに「密」を避けるため、公共交通機関よりも自動車を利用する人も増えました。自動車の需要が増すと、自動車向けの半導体が不足します。また自動車向けの半導体の生産力を、パソコン用の半導体の生産に充てていた工場も多くありました。そのため、減産や操業停止に陥る企業も多くありました。

アメリカと中国の経済摩擦

アメリカと中国の経済摩擦も、原因の一つではないかとされています。世界的に半導体不足が注目されるようになったのは、2020年秋頃からです。しかしこれには2019年からのアメリカと中国の貿易摩擦が関係しているといわれています。

貿易摩擦によって、アメリカは中国企業への規制を強化しました。これにより、対象企業からの輸入は事前許可制となったのです。そして対象企業には、中国の大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が含まれていたので、中国からアメリカへの半導体の輸出量が大幅に減ることとなります。

アメリカは代替先として台湾を選びましたが、半導体の調達先は限定されたままです。台湾の半導体メーカーは受注に対応しきれなくなり、2022年現在も続く半導体不足の原因となっています。

サプライチェーンの混乱

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の工場が生産停止となりました。この影響で、半導体の製造に必要なさまざまな物資の供給が、世界的に滞ってしまうこととなります。さらに新型コロナウイルスの感染拡大は、湾港作業の人手不足や船の遅延などにも影響してきます。過去例を見ない規模の感染拡大によりサプライチェーンは混乱し、入手困難な部材が生じることとなります。その結果、半導体の生産体制に大きな影響を及ぼしています。

輸送コストの上昇

世界が「withコロナ」へと変わっていく中で、海運に物資が集中することになります。

その結果、世界的なコンテナ不足が起こることとなりました。また湾港業務に従事する人材が不足していることも、海上輸送のコスト上昇に拍車をかけているとされています。

ウクライナ危機

新型コロナウイルスの感染拡大に続き、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻も半導体不足に影響していると考えられています。半導体の生産にはレアガス(希ガス)やレアメタルが必要で、これらはロシアやウクライナから産出しているものが多くあります。レアガスは、大気中に100万分の1レベルでしか存在しないとされており、空気からレアガスのみを取り出すのは難しく、生産効率が落ちてしまいます。さらに日本には大規模なプラントが少なく、海外の大型プラントに依存している部分がありました。そのため、ウクライナ危機がこのまま長引けば、さらなる半導体不足になる可能性も考えられます。

半導体不足(機器の不足)はいつまで続くのか

では世界的に起きている半導体不足はいつまで続くのでしょうか。ここでは、世界的な大手半導体メーカーによる見解などをご紹介します。

海外大手企業の見通し

IT分野を中心に調査を行う企業「ガートナー」によると、2022年の第2四半期頃からだんだんと半導体不足は解消するとの見通しを示しています。その理由は、多くの半導体メーカーが生産ラインの増強を表明したこととされています。2022年の夏頃から稼働する生産ラインもあり、半導体不足解消への期待が持たれています。

しかし、半導体の需要は依然として増加しています。またウクライナ危機などもあり、世界的情勢の見通しが立ちにくいことから2022年も引き続き半導体不足が続く可能性もあるとされています。

日本国内の生産はどうなっているのか

日本国内でも半導体の生産ラインの増強が進んでいます。たとえば、経済産業省主導によって、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)から工場を誘致するプロジェクトが始まっています。これによって、2021年10月からTSMCが日本国内で初めてとなる工場の建設を始め、2024年からの稼働を目標としています。この新工場は、熊本県内にソニーグループと協働で作られています。

半導体業界とは

ではそもそも、半導体業界とはどのようなものなのでしょうか。半導体の製造工程は大きく「設計工程」「前工程」「後工程」の3つに分けることができ、多くの企業が関わっています。

材料であるシリコンから最終製品となる半導体チップまでは400〜600もの工程が必要とされています。そのため、多くの企業が半導体の製作に関わっています。半導体の業界は大まかに以下の4つに分類できます。

ファウンドリー 前工程をデバイスメーカーから受託
デバイスメーカー メモリやロジック半導体を製造
半導体材料メーカー 原料のシリコンウェハを製造
半導体製造装置 半導体の製造に必要な機械を製造

・ファウンドリー

半導体の生産のみに特化している企業を指します。他社からの依頼によって生産を行っており、生産や販売は顧客となる企業が行います。ファウンドリーは、さまざまな企業の製品をまとめて生産しているため、比較的低コストで製造が可能です。

また顧客企業側も設備投資を抑えることができるため、半導体の設計や開発にのみ力を入れることができます。

・デバイスメーカー

デバイスメーカーとは、ロジックやメモリを問わずに半導体の設計や製造、販売を行っている企業です。デバイスメーカーは、さらに細かく3種類に分けられます。

ファブレス 設計・開発は自社で行い、製造工程は外部委託
ファブライト 設計・開発・生産は自社で行い、最先端プロセスのみ外部委託
IDM(垂直統合型) 設計・開発・生産をすべて自社

 

少し前までは設計・開発・生産をすべて自社で行う、IDMの企業が多かったとされています。しかしコストが膨大になるため、ファブレス業態に移行する企業も増えているのが現状です。

・半導体材料メーカー

半導体の材料であるシリコンウェハや加工に必要なフォトレジストなどを生産している企業のことです。

・半導体製造装置メーカー

半導体製造装置メーカーは、半導体を作るための装置を製造しているメーカーです。半導体の製造過程によって分類することができます。

前工程装置 ウェハのエッジングや洗浄などを行う装置
後工程装置 ウェハの切断や研磨などを行う装置
露光装置 ウェハに回路パターンを露光させてチップを製造する装置
検査装置 前・後工程において検査を行う装置

半導体製造装置メーカーは、半導体メーカーやファウンドリー企業の動きに大きく左右されるとしています。近年、設備投資が続いており、今後も成長が見込まれています。

半導体業界の成長に期待

新型コロナウイルスの感染拡大やアメリカと中国の貿易摩擦、ウクライナ危機など、さまざまな要因が重なり、現在では半導体不足に陥っています。しかし、新たなニーズが生まれたことにより、需要は回復傾向にあります。半導体業界は今後も需要の増加が見込まれていることから、成長が期待できる分野といえるでしょう。今後は、徐々に生産ラインが回復してくることから、2022年中には半導体不足の解消を見込んでいる企業もあり、動向が気になる分野といえます。