犯罪収益移転防止法とは?内容や罰則を解説

携帯電話や固定電話などを契約する際には、厳格な本人確認が行われます。金融機関の口座開設などの際にも、本人確認の手続きは厳格で手間がかかります。さまざまな申込みをする際に本人確認が必要となるため、「面倒だな…」と感じてしまっている人も多いでしょう。
このような厳格な本人確認が実施されている背景には、犯罪収益移転防止法という法律があります。どちらかといえば金融機関との関わりが深い法律ですが、電話サービスにも関係があるものです。
本記事では犯罪収益移転防止法について、内容や罰則などを中心に解説していきます。
犯罪収益移転防止法とは
犯罪収益移転防止法というのは、テロ組織への資金提供やマネーロンダリングなどを防止する目的で制定された法律です。2001年9月にアメリカで起こった同時多発テロ事件後に、日本はテロ資金供与防止条約に署名しました。その後、犯罪収益移転防止法が制定され、2008年に施行されたという流れです。
犯罪収益移転防止法の正式名称は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」といいます。また「犯収法」と略されることもありますが、いずれも同じ法律です。
では、犯罪収益移転防止法の内容や罰則などについて見ていきましょう。
内容
犯罪収益移転防止法は、特定事業者に対して特定取引の確認や記録の作成・保存などを義務づける内容の法律です。疑わしい取引に関しては届出義務も規定されています。
疑わしいというのは、収受した財産が犯罪による収益の可能性がある場合と、犯罪による収益を秘匿している可能性がある場合です。
本人確認に関しても、犯罪収益移転防止法で規定されています。銀行口座の開設を行う際には、どの銀行でも必ず本人確認が実施されるでしょう。これは、犯罪収益移転防止法で本人確認が義務づけられているためです。本人確認の方法に関しても、具体的に規定されています。
また、ここ数年でオンラインでの本人確認を行う金融機関や通信会社が増えてきました。これは、2018年に犯罪収益移転防止法の改正が行われたためです。それ以前までは、郵送と対面の方法のみ認められていましたが、2018年の改正以降はオンラインでの本人確認が可能になりました。スマートフォンの契約の際にも、オンラインによる本人確認が行われています。
罰則
犯罪収益移転防止法には、罰則が規定されています。
対象となるのは、相手が名義人を装って使用することを知っていながら、通帳やキャッシュカードを譲渡・交付・提供する行為です。銀行口座を売買した場合、これに該当します。
罰則の内容は「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科」です。
目的
犯罪収益移転防止法は、犯罪で得た収益の移転を防止することを目的としています。移転というのは、銀行口座から別の銀行口座に移したり、別の国の通貨に換えたりすることです。収益を移転することで、犯罪組織が活動しやすくなり、収益の出所も分かりにくくなってしまいます。犯罪組織が資金を移動しづらくすることで、活動を抑制し収益の出所を特定しやすくするのが狙いです。
また、犯罪収益というのは詐欺や窃盗などで被害者から奪い取った金銭の他に、違法薬物を販売して得た金銭なども含まれます。犯罪行為によって得た資金は全て該当すると捉えて良いでしょう。
特定事業者とは
特定事業者というのは、犯罪収益移転防止法の対象となる事業者のことです。特定事業者に該当する事業者は、犯罪収益移転防止法の内容をよく理解し、規定されている義務を果たさなければなりません。
具体的には次の事業者が特定事業者に該当しており、この中に電話関連のサービスも含まれています。
・金融機関等
・ファイナンスリース事業者
・クレジットカード事業者
・宅地建物取引業者
・宝石・貴金属等取扱事業者
・郵便物受取サービス事業者
・電話受付代行業者
・電話転送サービス事業者
・司法書士
・行政書士
・公認会計士
・税理士
・弁護士
なお、士業に関しては、個人だけでなく行政書士法人や監査法人のような法人も含みます。また、金融機関等というのは、具体的には銀行や信用金庫、労働金庫、保険会社、両替業者などです。
特定取引とは
特定取引というのは、犯罪収益移転防止法の規定が適用される取引のことです。特定事業者に対して、全ての取引に関して確認が義務づけられているわけではありません。確認が義務づけられているのは、あくまで特定取引のみです。
具体的には、次のような取引が特定取引に該当します。
- 【金融機関等】預貯金口座の開設、10万円を超える現金送金
- 【クレジットカード事業者】クレジットカードの契約
- 【電話受付代行業者】電話受付代行サービスの契約
- 【電話転送サービス事業者】電話転送サービスの契約
など
取引時確認とは
取引時確認というのは、顧客が特定取引を行う際に特定事業者に対して、義務づけられている確認事項のことです。個人の顧客に対しては本人特定事項と本人の職業、取引の目的を確認しなければなりません。本人特定事項というのは、その顧客の氏名と住所、生年月日などを含む情報です。本人特定事項を確認する目的で、契約時や口座開設時などに本人確認が実施されます。
法人の顧客が特定取引を行う際にも、取引時確認が必要です。ただし、法人の場合には個人とは異なり、法人の名称、本店、事務所などの所在地が本人特定事項とされています。さらに法人の事業内容や取引の目的、法人の実質的支配者の確認も確認しなければなりません。
また、取引時確認の内容は7年間保存しておくことが義務づけられています。もし、取引が犯罪と関わりのあるものだということが判明した場合に、証拠として用いるためです。
犯罪収益移転防止法に関連する携帯電話不正利用防止法とは
犯罪収益移転防止法では、携帯電話の契約に関する規定は特に設けられていません。電話受付代行業者や電話転送事業者は特定事業者に含まれますが、携帯キャリアやMVNOなどは対象外です。
これらの携帯キャリアやMVNOを対象とする不正防止の規定として、携帯電話不正利用防止法があります。では、携帯電話不正利用防止法の主な内容や罰則について見ていきましょう。
内容
携帯電話不正利用防止法では、携帯キャリアやMVNO、携帯レンタル業者に対して契約時の本人確認を義務づけています。
確認すべき事項は犯罪収益移転防止法で特定事業者に対して義務づけられているものと同じ内容です。身分証明書を提示させ、住所や氏名、生年月日を確認し記録しておかなければなりません。法人の顧客に対しては、登記簿事項証明書の原本を提示させて本人確認を行います。
携帯電話が犯罪に利用された場合には、警察からの求めに応じて情報を提供しなければなりません。該当の番号の携帯電話に関してサービスの停止などの措置を求められる場合もあります。
罰則
携帯電話不正利用防止法には罰則付きで禁止事項が設けられています。
まず、本人確認時の虚偽申告に関して禁止されており、違反した場合の罰則は、50万円以下の罰金です。
携帯電話を携帯電話事業者に無断で譲渡や譲り受けすることも禁止されています。譲渡に関しては有償で業として行う場合に罰則が設けられており、2年以下の懲役または300万円以下の罰金です。譲渡の勧誘や広告行為に関しても禁止されており、50万円以下の罰金と規定されています。
業として譲り受けた場合の罰則も譲渡と同じ内容です。また、譲り受けは業として行っている場合でなくても罰則の規定があり、50万円以下の罰金に処せられます。
また、携帯レンタル業者が本人確認を行わなかった場合についても罰則の規定があり、2年以下の懲役または300万円以下です。
まとめ
犯罪収益移転防止法は、犯罪組織へ資金が流れづらくするために制定された法律です。金融機関等に本人確認や取引の記録を義務づける内容で、犯罪発生時に警察に対して情報提供が行われます。
携帯電話の契約に関しては、携帯電話不正利用防止法において、規定が設けられています。これにより、金融機関の口座開設と同様に契約時に本人確認が必要です。
なお携帯電話に限らず、050番号や0ABJ番号(03、06など)を取得する際や、クラウドPBXを申し込む際についても、犯罪収益移転防止法の規定に則り手続きを進めることとなります。
本人確認を求められるため契約の際はやや面倒に感じられるかもしれませんが、犯罪抑止や摘発のためには必要な法律ですので、その目的について知っておきましょう。




















